ヨハネの福音書5章30-47章
【ヨハネの福音書の緒論】(おもに『新改訳注解付聖書』を参考)
■著者は<イエスが愛された弟子>(21:20,40)。すなわち<ゼベダイの子ヨハネ>(マタ10:2)。教父と呼ばれる初期のキリスト教会指導者たちも、ゼベダイの子ヨハネが著者であると認めている。【注】『ヨハネの福音書』と呼ばれるようになったのは2世紀後半。その外的証拠として、教父たちの著作に使徒ヨハネが書いたと複数の証言あり。ムラトリ断片の正典目録(170-200年)にも『ヨハネの福音書』が含まれている。その他、アレキサンドリアのクレメンスの証言。テルトウリアヌスの証言なども。なお、<使徒>ヨハネ(マタ10:2)、ヨハネの手紙Ⅰ~Ⅲの著者<長老ヨハネ>(Ⅲヨハ1)、ヨハネの黙示録の著者ヨハネ(黙1:1)など、呼称が違っているがすべて同一人物。
【注】<イエスの愛された弟子>(21:20)とは、使徒ヨハネを指す。ところが21章24節の<たち>とは誰か。<あかしした>は文法上、現在分詞なので、これが書かれたとき使徒ヨハネは生存していることになる。従って<私たち>(21:24)とは老使徒ヨハネの協力者たちである。それに続く<私>(21:25)とは、これを筆記した人である。
■執筆年代 紀元100年になる少し前、紀元90年代。ヨハネは執筆時、80~90歳。
■執筆場所 エペソと思われる。
■執筆事情 マタイ、マルコ、ルカによる3つの福音書(共観福音書)が記されたのち、これらを補う必要に迫られて記された。(共観福音書に対して、第4福音書と呼ばれる。)
■執筆目的は、<イエスが神の子キリストであることを、あなたがたが信じるため、また、あなたがたが信じて、イエスの御名によっていのちを得るため>(ヨハ20:31)。イエスの歴史的啓示にもとづき、イエスが神の子キリストであることを神学的に解明し、これを宣べ伝えている。
■特色 ①単純な文体、②深遠な思想、③頻繁な用語、④(20章のクライマックスに向けた)意図的な構成。ヨハネの福音書を解釈する3つのキーワードは、<神の子キリスト>、<信じる>、<いのち>(20章31節他)。(新約聖書中、動詞<信じる>は230回あり、内98回、43%をヨハネの福音書が占める。なお、ヨハネの福音書には名詞の「信仰」は無い。)⑤選択された内容。(譬話が記されて無い。共観福音書に記されていない5つを含む、計7つの奇跡を選んで記している。)⑥大部分がユダヤでの活動。(従ってユダヤの行事、祭りの記述が多い。)⑦個人的会見の記事が多い。(ニコデモ、サマリヤの女、ピリポ、トマス、マリヤとマルタなど)⑧イエスの疲れ(4:6)、渇き(4:7)、悲しみ(11:35)など、人間的な面も強調されている。
以下、ヨハネの福音書5:30-47より、説教の梗概
【序】■ヨハネの福音書5:30-47では、イエスが神を「父」と呼んで、ご自身を神と等しくされたこ
とに対して、ユダヤ人たちがイエスを殺そうとする。これに対してイエスが神の御子キリスト(メ
シヤ/救い主)であることを主張しておられる。■前半の5:30-38では、イエスはご自身が神の御
子キリストであることの証拠として、4つの証言を挙げておられる。(⇒本論1)後半の5:39-47
では、ユダヤ人の聖書の読み方の間違いを指摘しておられる。(⇒本論2)
【本論】イエスは、ご自身を証言する4つのものを挙げておられる。
1. イエスがキリストであることを証言する4つのもの。
(1)バプテスマのヨハネ。<彼は真理について証言しました>(33)ヨハネ1:29 <その翌日、ヨハネは自分のほうにイエスが来られるのを見て言った。「見よ、世の罪を取り除く神の小羊。>
(2)イエスの御業。<わたしが行なっているわざそのものが…証言しているのです>(36)
【注】<わたしが行なっているわざそのもの>とは、奇跡も含んでいるが、奇跡だけではない。イエスの言葉、行い、生き方のすべてが天の御父の御心を求めて実行しておられる。それをイエスは「わざ」と呼んでおられる。ヨハネの福音書では、「わざ」を21回強調。(4:34.
5:20,36.6:28,29.7:3,21.8:39,41.9:3,4.10:25,32,33,37,38.14:10,11,12.15:24.17:4)
(3)御父。<わたしを遣わした父ご自身がわたしについて証言しておられます>(37)
①38節<みことば>。②39節<聖書>。47節<モーセの書>これらは父なる神の証言。
(4)聖書。<聖書が、わたしについて証言しているのです>(39)【注】ここでいう聖書とは旧約聖書
2. にもかかわらずイエスを信じようとしないのはなぜか。それは、聖書の読み方が間違っているからと、イエスは言われる。【注】このことは今日の私たちにも当てはまるので注意を。
(1)<あなたがたは、聖書の中に永遠のいのちがあると思うので、聖書を調べています>(39a)。【注】<聖書の中に永遠のいのちがある>のではない。永遠のいのちはイエス・キリストの中にある。<その聖書が、わたしについて証言しているのです。>(39b)
(2) 聖書を学ぶ心が間違っている。心が変えられることを願って聖書を読もう。
イエスは、<それなのに、あなたがたは、いのちを得るためにわたしのもとに来ようとはしません>(40)と言われる。「不信仰は証拠の欠如から生ずるよりも、むしろ信じようとする意志の欠如から生ずる。」(英国の諺)<だれでも神のみこころを行なおうと願うなら、その人には、この教えが神から出たものか、わたしが自分から語っているのかがわかります。>(7:17)。<互いの栄誉は受けても、唯一の神からの栄誉を求めない>(44)。信仰は人間の知性だけでなく、神との(義と愛の)関係にもとづく。
(3)イエスによれば、聖書を信じることはイエス・キリストご自身を信じることである。<もし
あなたがたがモーセを信じているのなら、わたしを信じたはずです。モーセが書いたのはわたしの
ことだからです。>(46)【注】申命記18:18 <わたしは彼らの同胞のうちから、彼らのためにあ
なたのようなひとりの預言者を起こそう。わたしは彼の口にわたしのことばを授けよう。彼
は、わたしが命じることをみな、彼らに告げる。> <しかし、あなたがたがモーセの書を
信じないのであれば、どうしてわたしのことばを信じるでしょう。>(47)
【結び】 <私の目を開いてください。私が、あなたのみおしえのうちにある奇しいことに目を留めるようにしてください。>(詩篇119:18)と祈りつつ聖書を読もう。
【御言葉の分かち合いと祈り】(『みことばの光』より)1.神はどのようなお方でしょう。何をなさるお方で
しょう。2.神が命じておられること、あるいは約束しておられることは、どのようなことでしょう。3.登場人物
のことばや行動から何を学びますか。4.どのみことばを心に留めて、歩みますか。(上記のいずれかを分かち合って
下さい。隣りのかたにパスなさっても結構です。)祈り合って御言葉の分かち合いを終えましょう。
(八尋 勝:記)
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